絵馬掛けの前に立ち、木の板を手にしたものの、何をどう書けばよいのか迷ってしまった経験はありませんか。裏には何を書くのか、名前まで書く必要があるのか――いざ筆を執ろうとすると、意外と迷うことの多い作法です。近年は合格祈願や安全祈願だけでなく、思い思いの言葉を綴る人も増えているようです。社寺によって形や絵柄もさまざまで、旅先で見かける絵馬の意匠を眺めるだけでも楽しいものです。今日は、絵馬の由来と書き方の目安を天啓の防壁がご紹介します。
「馬」の絵が奉納されるようになった理由
古来、馬は神様の乗り物とされ、祈願の際には生きた馬そのものを神馬として奉納する慣わしがあったと伝えられています。しかし生きた馬の世話は容易ではなく、平安時代の頃から、馬の絵を描いた板で代用されるようになったとされ、これが今日の絵馬の原型と考えられています。木や銅で作った馬の像を奉納する時期を経て、現在のような板絵に落ち着いていったとも言われています。
願いごとは、表側の余白に
絵馬の表側にはすでに馬や社寺にゆかりの絵柄が描かれているため、願いごとは裏側の白い面に書くのが一般的とされています。文字数や文体に厳密な決まりはなく、簡潔に一つの願いを書き記す方が多いようです。複数の願いを欲張って書き連ねるより、いちばん叶えたい一つに絞る方が、心も定まりやすいと言われています。
名前や住所は、書いても書かなくても
絵馬に名前や住所まで書くべきかどうかは、実は決まった正解があるわけではありません。多くの人の目に触れる場所に掛けられることから、イニシャルや下の名前だけにとどめる方も少なくないとされています。個人情報をどこまで記すかは、それぞれの考え方に委ねられている部分です。
掛ける場所と、持ち帰りについて
書き終えた絵馬は、絵馬掛けと呼ばれる専用の場所に掛けるのが基本です。神仏に見ていただくためのものであるため、社寺に納めて掛けるのが一般的とされていますが、記念として持ち帰る授与品として扱う社寺もあります。迷ったときは、その場の案内や授与所で尋ねてみるのがよいでしょう。掲げられた絵馬が風に揺れ、小さな音を立てる境内の光景も、絵馬掛けならではの趣です。
絵馬掛けにずらりと並んだ木の板を眺めると、それぞれ違う筆跡で、違う願いが綴られていることに気づきます。書き手の数だけ物語があるというのも、絵馬という形式が持つ静かな魅力の一つです。
次に社寺を訪れる際は、絵馬掛けに立ち寄って、他の人がどんな言葉を綴っているか眺めてみるのもよいかもしれません。自分が筆を執るときの、ささやかな手がかりになるはずです。