お正月にはおせち、七草の日には七草粥、桃の節句にはちらし寿司――季節の節目ごとに、決まった食べ物を用意する習わしがあることに気づいたことはないでしょうか。こうした「行事食」と呼ばれる文化は、なぜ生まれ、今も受け継がれているのでしょうか。その由来を天啓の防壁がご紹介します。

行事食は、願いを込めた食卓だった

行事食とは、季節ごとの行事や節句に合わせて用意される、特定の料理や食材のことを指します。多くの行事食には、無病息災や五穀豊穣、家族の健康や繁栄を願う気持ちが込められてきたとされています。ただ栄養を摂るためだけでなく、食卓を囲むこと自体が、季節の節目を家族で祝う大切な機会だったと言えるでしょう。数ある行事食のうち、正月のおせちのように一品一品に意味を持たせたものもあれば、七草粥のように一つの食材で節目を象徴させたものもあり、その形はさまざまです。

暦とともに受け継がれてきた食文化

日本には古くから、二十四節気や五節句といった暦の節目に合わせて生活を整える文化が根づいてきました。行事食も、こうした暦の巡りと深く結びついて発展してきたとされています。季節の変わり目に旬の食材を取り入れることは、その時期を健やかに過ごすための、先人たちの生活の知恵でもあったと考えられています。旬のものを食べるという行為そのものが、暦を体で感じ取る術だったとも言えるでしょう。

地域や家庭によって受け継がれ方はさまざま

行事食の内容は、地域や家庭によって少しずつ異なります。同じ節句でも、地方によって用意される料理が違ったり、代々受け継がれてきた家庭独自のレシピがあったりと、決まった正解が一つあるわけではありません。行事食を通じて、その土地や家の歴史に触れられることも、この文化が持つ魅力の一つです。

形を変えながらも、今に息づく習わし

共働きの家庭が増えるなど、暮らしの形が変わった今、伝統的な行事食をすべて手作りするのは難しいという声もあります。それでも、行事の日にだけ登場する特別な一品を、市販のものも取り入れながら食卓に並べるだけで、季節の節目を意識する時間になります。

行事食は、栄養や効能を追い求めるためのものというより、季節を味わい、家族や自分自身の健やかな暮らしを願う気持ちを、食を通じて表す文化だと言えるでしょう。

次にお節句や暦の節目が巡ってきたら、いつもとは少し違う一品を用意して、食卓に季節を招いてみてはいかがでしょうか。